プーランク:オペラ『声』 ━━ 東条碩夫

 電話がけたたましく鳴る。

 恋人からの電話を待ちかねていた主人公の女性が、受話器を取る。

 だがこの電話、かけ間違い、混線、断線などが入り乱れる。女性は苛立つ。

 そしてまたその「恋人」なるものは、どうやら彼女を捨てて他の女性と結婚することになっているらしい。主人公の女性は、一度は自殺を試みたらしいが、とにかくこれが最後の電話になるであろうことを予想している。彼女はその「恋人」を相手に、埒もないことを話しつつ、過去を思い出し、希望にすがり、時に逆上し、時に優しさを取り戻す。こういった状態での電話のやりとりが、悲劇的なエンディングまで続いて行くのである。

 「昔だったら会って話して、抱いたり、キスしたりすればすぐわかり合えるのに、こんな電話なんかで・・・・」と相手に愚痴る女性の歌詞は、通信手段への風刺であると同時に、笑えぬ悲劇だろう。いつの時代でもこういう不満は、形を変えて起こるものだ。

 タイトルは、原題が「LA VOIX HUMAINE」なので、「声」の他に、「人の声」「人間の声」などと訳されることもある。登場人物が独りで歌い演じる、いわゆる「モノ・オペラ」だ。同種のものには、他にシェーンベルクの『期待』というのがある。そちらは自分を裏切った男の死体を発見し、それに取りすがって長い愛と恨みの幻想を独り歌い続ける女性が主人公のオペラだ。

 また、電話を題材にしたオペラには、他にアメリカの近代作曲家メノッティによる『電話』というのがある。これは、電話で長話に耽ってばかりいる恋人に結婚を申し出ようと焦る青年がある方策を思いつき━━というコメディである(4月28日17時から小ホールで上演される)。これらは、『声』とのダブル・ビル(2本立て)として上演されることもある。

 電話の呼び出し音は、スコアに指定されているのは、当然ながら昔のチリリリンと鳴るスタイルだ。打楽器がそれを表現する。現代風にするためにそれを電子音に変えることも可能だろうが、今どきの電話は断線も混線もないし、交換手が間に入るとこともまずないから、やはりオリジナルのスタイルでやるのが妥当であろう。

 オペラの原作は、ジャン・コクトーが1930年に初演した戯曲である。プーランクは、これを1958年にオペラとした。初演は翌年2月に行われた。プーランク特有の色彩的で官能的な、ちょっと不気味なオーケストラが素晴らしい。コクトーはソプラノ歌手に、立ったり座ったり、電話のコードを引きずりながら歩き回ったり、常に動きながら歌うよう求めている。

東条碩夫〔音楽評論〕 

 

                

 

    

                        砂川涼子

公演番号【27-L-2】

4月27日(土)15:00~15:50 大ホール

沼尻竜典オペラセレクション

プーランク作曲 歌劇『声』(全1幕/演奏会形式/フランス語上演・日本語字幕付)

砂川涼子(ソプラノ)/京都市交響楽団

沼尻竜典(指揮)

中村敬一(舞台構成)

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