レスピーギが愛したメゾ・ソプラノ━━中巻寛子

オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)は、生涯に70曲を超える独唱用歌曲を作曲したが、そのリストを見てみると、意外にメゾ・ソプラノのために書かれた作品が多いことが判る。実は、そこにはこの作曲家を長年に渡って支えた、二人の女性歌手の存在が反映されていたのだ。

一人目の歌手は、トリノ生まれのメゾ・ソプラノ、キアリーナ・フィーノ=サヴィオ (1878-1969) である。彼女は1911年に行われた、レスピーギの管弦楽伴奏による歌曲《アレトゥーザ》初演において、本番直前に降板した歌手の代役を務め、演奏会を成功に導いた。以来、レスピーギは彼女とその演奏に絶大な信頼を寄せ、《もし、いつの日にかあの方が戻られたら》、《6つの叙情歌 第1集》、《同 第2集》、《夕暮れ》、その他の歌曲を次々と彼女に献呈した。彼女の存在は、間違いなく1910年代の彼の歌曲創作に大きな影響を及ぼした。

そして、二人目の歌手は、1919年にレスピーギの妻となったエルサ (1894-1996) である。もともと彼女はレスピーギに師事して作曲を学んでいたのだが、結婚後はメゾ・ソプラノの歌手として夫とともに数多くの演奏会に出演し、公私に渡って彼を支え続けた。レスピーギがダンヌンツィオの詩に作曲した《4つの叙情歌》や《アルメニアの詩人による4つの叙情歌》は、まさに彼女に献呈されたものだったのである。

今回、中島さんが選んだプログラムは、レスピーギの代表作とされる《霧》を始めとする初期歌曲6曲と、キアリーナとエルサに献呈された1911年以降の歌曲5曲。中でも、プログラムの最後を飾る《昔の歌に寄せて》の美しさは格別のものがある。中島さんの豊かなメゾ・ソプラノの声を聞きながら、100年前の女性歌手たちの歌声に想いを馳せるのも一興。晩春の宵に、そんな夢のようなひとときを楽しんでいただけたらと思う。

中巻寛子(メゾ・ソプラノ、愛知県立芸術大学教授)

中島郁子

~レスピーギ歌曲集~

公演番号【27-S-7】
4月27日(土)17:00~17:40 小ホール

中島郁子(メゾ・ソプラノ)、筈井美貴(ピアノ)

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